パラノイア境界線


「そういえば、名前。君の名前まだ聞いてなかった」

「……水谷ユウ…」

「へぇ。ユウ、か。俺は池田昴」

"今更だけどよろしくな"と、昴はまた子犬みたいな顔をして笑った。

「こっちも今更だけど、あたしみたいなヤツ泊めていいの?明日起きたら金目のある物全部なくなってたらどうする?」

「あー、金目のある物も金もないから、その心配はいらない」

昴は少しも悲しそうな顔をせず、むしろヘラヘラ笑った。

「俺にはギターと、声があればいいの」

目をつむってそう言った顔が、とても満足そうに見えた。

そこまで言える何かがあること正直羨ましく思う。

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