パラノイア境界線
それは、ほんとにふとした出来事だった。
二人の会話が途切れたとき昴が妙に真面目な表情になった思うと、唇が触れあいそうな距離に近付いてきた。
あたしの心臓は高鳴る。
甘い痛みなんかじゃなくて、焦燥感に似た痛みだった。
押し入れの中の窮屈さが蘇ってきて、息がつまる。
そして、またフラッシュバック。
ママの滑らかな曲線。
知らない男の骨張った肉体。
電車でのざらついた男の指の感触。
必死で逃げるのに、逃げているのに
闇はケラケラ笑いながらあたしの腕を掴む。