† of Holly~聖の契約
「いっそ、死んでおれば幸せだったやもしれんな」

「……」

いつの間にやら、彼れがいた。

いやもしかしたならば、私が目覚める前からいたのやもしれない。

「よもや、貴方がわたくしを生かされたのですか」

「まさか。俺にそんな力はない」

答えとともに、なにかが放られる。

足元に転がったのは、丸められた手拭いのようだった。

私の指先は石のように冷えていたが、手に取ると、湿っているのがわかる。

「言うたことは守る。濡れた手拭いでも持ってきてやろうと言っただろう」

「律儀な方にございますね」

「それくらいしか取り柄がない」

「ご謙遜を」

苦笑してやった。

少なくとも、気絶していたのならともかく、目が覚めた私でさえ声を聞く気付かなかったのだ。

そこまで気配を消せる人間が、それくらいしか取り柄がないなどと、よく言ったものだ。
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