† of Holly~聖の契約
「異常なのは、むしろお前なのだよ」

と、これもまた唐突に言われた。

こちらがなにかを言い返すより早く、彼は虚空に向かって呟く。

「異常というのはいつ何時も、正常と向き合っておる。つまるところ、正常があるから異常がある。そしてここでの正常とはあ奴らであり、異常とはお前だ」

「……なんて、こと……」

それでは、その異常な正常によって姉上は身を捧げたというのか?

そこに、姉上の意思はあったのか?

姉上の正常は、本当に働いていたのか?

「異常というものを計るものさしはな、個人より大衆の中に生まれるものだ。お前ひとりがこの村の異常を指摘したところで、この村にとってそれは異常ではなく正常に過ぎん。むしろ、正常を異常と見るお前こそが異常だ」

「……では、貴方はどちらなのですか」

「俺か?」

彼がこちらに振り返った。顔の細かな部分までは、やはり見えぬ。

私も立ち上がり、私の腕より太い木組みの格子から手を伸ばした。

彼の襟元を掴む。
< 16 / 72 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop