† of Holly~聖の契約




光も風も迷い込まぬ岩牢に淀む空気は、ふとすれば、唸り声をあげているようだ。

おおう、おおう、おおう……唾液を滴らせる獣が腹を抱えているような、低い唸り声。

風などない。しかし空気が対流している。異常だ。いったいなにが、この膠着した空間の気を掻き混ぜているのだろうか。

姉上はこの土地に束縛された。

それだけ、この土地は奇怪なのだ。

私とて巫女の端くれ。この地に渦巻いている異常を、少しは理解している。

この地はおかしいのだ。

村を中心として西には大量の邪気があり、北からは得体の知れない気配が蠢き、南からは矢に狙われているような殺気を覚える。

特に異常なのは、東だ。

どういえばよいのだろう。まるで、地獄の業火が無理やり小瓶の中に押し込められているような、恐怖といおうか畏怖といおうか、目を背けてしまいたい存在感を覚える。

東の地には、恐ろしいものが微睡んでいる。

直感だったが、間違いないだろう。
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