† of Holly~聖の契約
独章 参
† 独章 参
「鬼がおるのだ」
と、六条殿は言った。
「この世に、この土地に、鬼がおるのだ。それは異常ではなく正常な、あるいはあまりに自然過ぎるものとして、まこと存在しておるのだ」
「……ならばわたくしは、その鬼を祓えばよろしいのでは」
今までの二度と同じく、彼はいつのまにか来ていた。
そして、牢獄中に散らばる石を見て笑ったのだ。
そんな布団では硬かろうと。
「祓えるものではないぞ。あの鬼はな、正常なのだ。一片の異常もない、真正の鬼ぞ。鬼であることが正常なのだ。祓えようものではないし、祓うべきではない」
「ですが、わたくしのなすべきことは本来、人外の駆逐にございます。そのための煤祓いであり、そのための聖音法術にございます」
ヒジリネ
「聖 音……のう。ふむ。それでも、見逃せ、と言うほかない」
今日も今日とて藍色のひとえである六条は、私に背後から掴みかかられるやも知れぬというのに、格子に背を預けて悠長に構えていた。
「鬼を見逃すのでございますか」
「そう言うたぞ」
「ですが、それでは意義が……」
姉上がこの土地に身を捧げた意義が、なくなってしまう。
「鬼がおるのだ」
と、六条殿は言った。
「この世に、この土地に、鬼がおるのだ。それは異常ではなく正常な、あるいはあまりに自然過ぎるものとして、まこと存在しておるのだ」
「……ならばわたくしは、その鬼を祓えばよろしいのでは」
今までの二度と同じく、彼はいつのまにか来ていた。
そして、牢獄中に散らばる石を見て笑ったのだ。
そんな布団では硬かろうと。
「祓えるものではないぞ。あの鬼はな、正常なのだ。一片の異常もない、真正の鬼ぞ。鬼であることが正常なのだ。祓えようものではないし、祓うべきではない」
「ですが、わたくしのなすべきことは本来、人外の駆逐にございます。そのための煤祓いであり、そのための聖音法術にございます」
ヒジリネ
「聖 音……のう。ふむ。それでも、見逃せ、と言うほかない」
今日も今日とて藍色のひとえである六条は、私に背後から掴みかかられるやも知れぬというのに、格子に背を預けて悠長に構えていた。
「鬼を見逃すのでございますか」
「そう言うたぞ」
「ですが、それでは意義が……」
姉上がこの土地に身を捧げた意義が、なくなってしまう。