† of Holly~聖の契約
「鬼は俺ら人間からしてみれば、それは異常だろう。が、鬼は自らが正常だとは思っておらぬ。ゆえに自ら異常となる。異常が異常を行うことは、極めて正常だとは思わないか」

「……一理、ありますが」

「同じことがこの村にも言える。この村は異常だ。が、その異常をこの村の誰もが理解しておる。理解していながら異常を行う。なぜか。異常だからだ。異常が異常を行うことは、」

「正常ゆえ、にございますか」

「さよう」

ますますもって、おかしな土地だ。

なぜ、このような土地に姉上は身を捧げたのか。

強制ではなかったのか。

いや、自ら捧げたと言っていた。

あくまでそれは村の者らの言葉だが、しかし、あの姉上が強制されたところで屈するとは思えない。

ならば姉上は本当に……。

「考えても見ろ。この村は異常だ。その異常の中で、正常を行うことこそが異常なのだ。ならば、異常の中における正常とはなんだ。異常であることが正常なのだ」

「それでは、正常はどこへゆくのですか……」

私の認めるものは、どこへいってしまうのだ。

「どこへも、あるいは、どこへでも」

ふと、なんとはなしに思った。

六条という男は、人間ではないのやもしれない。
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