† of Holly~聖の契約
「この村はな、いや、この土地には名がない。しかし人外からは、王城と呼ばれておるのだ」

「おおぎ?」

「王の城と書いてそう読む」

「なにゆえ……」

ただの村にしては、あまりに尊大で絢爛とした名前過ぎる。

この土地には、名の知れた武士も大名も、賢人もいないはずだ。

「ふむ。お前も気付いておるのだろう。この地の四方は鬼に見張られておる。それは、中心となるこの地にそれだけの価値があるのだ」

「鬼が欲するほどのものがあるというのですか」

「そう言うた」

けろりとした態度だった。

そして同時に、やや、おかしな話だった。

「ならばなぜ鬼は、早急にこの村を掌握しなかったのです。人間など鬼にしてみれば、赤子のようなものではごさいませぬか」

「人間は、な」

遠回りな言い方だ。

つまりそれは、人間ではなく――もっと根本的な理由。

「この地に、鬼を寄せつけぬ……あるいは鬼にそれをさせぬ故があると?」

「さよう」

「ならばいっそう、おかしなことではございませぬか」
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