† of Holly~聖の契約
独章 伍
† 独章 伍



夜も更けたであろう頃に、目が覚めた。

女の甲高い声、男の野太い声、老人のしゃがれた声、子供の細い声……

様々な阿鼻叫喚がこの地下牢獄にまで轟き聞こえ、私は頬の筋肉が弛緩するのを禁じえなかった。

始まった、という高揚しかなかった。

彼が、東の鬼を焚き付けることに成功したのだ。

虚脱感を押しのけて起こしあげた体の至るところで、乾いて薄く張り付いた白濁の割れる音がした。

石畳に張り付いていた髪が、ぶちぶちと音を立てる。

ああ、姉上に褒めてもらった黒髪だが、こんなところで杜撰にちぎれることになろうとは。

なお許せぬ。

ほんに今日、今の今まで、いっそよくぞ、ここまで私を穢したと思う。

だが、もうそれも終いだ。

怨恨ひとつひとつを、あえて独り言にすらせず、胸中へだけ刻み込む。

そうして立ち上がった私は、まるで幽鬼のようであったのだろう。

「ひっ!?」

という悲鳴が聞こえて見やった先、男がひとりいた。

暗くてよくはわからないが、六条殿とは違う、土に汚れた品のない着物だった。
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