† of Holly~聖の契約
「ですが、この身は穢されております。祓っても祓いきれぬところまで、穢されております。わたくしが正常であろうとなかろうと、心がもう黒く赤く、犯されているのです」

「……」

「ゆえ……おそばにただ、お仕えするだけ、ならば」

「……そうか」

私はうまく笑えている自信が、まったくなかった。

まったくのまったく、なかった。

それなのに彼は、そんなこと気にした様子がない。

「それでも構わん。お前は美しい。常にそばに置きたい。俺のような軟弱者を支えられるのはお前だけだ」

「ご謙遜を」

「嘘は言わん。俺は軟弱だ」

「ご冗談を」

私はあの晩、彼に言ったのだ。

どうか貴方だけは、わたくしになにかをお求めにはなりませぬように、と。

それなのに、この薄汚れた私を抱き締めるのだから、おかしい。

いや、それに応える私も、おかしいか。

彼は自ら言っていた。異常なのだと。

だが、どうしてだろうか。彼のような異常ならば、許せる。

それは、異常ではなく正常なのではないだろうか。

あるいは、実は私が正常ではなく異常なのか。

異常は、異常であることを正常とする。
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