ひばりヶ丘
良夫はといえば、中学校も高校も都心の私立に通っていました。近所に友達といえば、僕
位しかいませんでした。
 お互いが小学校に入学するまでは、お互いの家が百メートルと離れていないこともあって、毎日一緒に遊んでいました。僕の家から道ひとつ隔てた平屋建てでコンクリート作りの都営住宅の広場で、朝から日が暮れるまで缶けりや独楽回しをして、遊んでいました。
 小学校に入学すると、僕らは別々の友達を見つけました。僕は新しくできた友達と、毎日土と戯れ、良夫は通学のために利用するバスの窓越しに眺めるにぎやかな商店街の風景と、毎日戯れていました。
 中学校の頃の良夫のことは、ほとんど知りません。ただ、毎日僕らの市の駅から、ピンクのボディーに真っ赤なラインの入るとんびの顔のような私鉄電車で、山手線の方に出て行っているのを、知っているだけでした。
 小学校中学校の九年間、ほとんど話した事がなかった僕らが、再び付き合うようになったのは、良夫が七ハンを買った時からでした。
高校二年に進級した四月、ガールフレンドの明子を誘って高校に行こうと、いつものように国道沿いの良夫の家の前を通ると、良夫の家の前にパープルカラーのボディを、朝のシャープな光に照らして、まばゆいばかりにキラキラと輝いているホンダのCB 七ハンの
勇ましい姿を見たのでした。
 僕は一週間程前にこの市の駅前商店街で見た、服は真っ黒な革ジャンとだぼだぼの白のズボンで、髪はサイドにバックさせてパーマまでかけたリーゼントで、ばっちり決めた良夫の姿を思い出していました。七ハンを見たときは、羨望と、僕とは違う世界のことだと隔たりを感じました。
 僕の高校は、東京都の練馬区にある伸び伸びした明るい雰囲気の高校でした。僕がこの高校に入学する数年前までは、同じ都立のA
高校で勃発した学生運動の波が、この静かな
高校にも押し寄せました。学習面は勿論、生活面まで点数付けして生徒を縛っていた高校
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