Killing Heart
「今夜には旅立つでしょう、支度を済まして下さいね」
「はい」
そう言ってお師匠はまた、像が安置してある本堂へ向かっていった。
すると、客間から不機嫌そうに鬼が障子を開いた。
「あの野郎‥余計なことしゃがって。嫌ならいいんだぜ、女」
「仕方ないの、お師匠のお願いだから‥」
「お願い、か」
鬼は煙草を口から離し、素直だな、と私に言った。
それは気を配っていったのかな?
私はお師匠の為にここに居るんだ。
もう目的なんて分からない。
すると、
鬼がポンポン、と頭を優しく叩いてきた。
一瞬だけ、別人のように。
「女、修羅の道は険しいからな」
「‥女じゃなくて水城 夕露」
「んじゃ、水城、今夜に出るぞ?俺は鬼じゃねぇ阿修羅だ」
と、恥ずかしながらも互いにもう一度名乗った。
阿修羅、意外に良い奴かもしれない。
お師匠の弟子だもの、悪い人なわけない。
私はコクリと頷いて、慌てて廊下を走った。
「俺の命はもうすぐで果てるんだな、鷹史」
「‥珍しい。怖いんですか?」
「ばーか。怖いものなんてねぇよ」
空を見ると、
いつの間にか雨は上がっていた。