ひとなみ
紗香がマサキの彼女になって、一年が経った。
『一年』というと長く感じるが、デートはこれでまだ二回目になる。
手、つなぎたいなぁ。
紗香より数歩前を歩くマサキは、ケータイのカメラで写真を撮るのに夢中になっている。
マサキと、キスはもうたくさんした。
だけど、手をつないだ回数は、まだ片手の指ほどもなかった。
「まーちゃん」
「なに?」
「手、つなぎたいなぁ」
ダメ?
そう聞くと、マサキは困ったような顔で笑う。
それから紗香の所まで戻ってきて、自然な動作で、けれど紗香の顔を見ずに、手を握った。
「行こう」
「うん」
手を繋ぐ、とは言っても指を絡めるようなことはない、手を取り合うだけのもの。
嬉しくて頬がゆるんだ。
暖かく、乾いた指が気持ちいい。
ふと見れば、マサキの耳がほんのり赤くなっている。
それがまた嬉しくて、勇気を出して手を引き寄せ、腕を組もうかと思った、
その瞬間、
「あ、」
マサキがサッと手を離し、紗香からはなれて、素っ気なく歩き出した。
突然のことに紗香が驚いていると、
「あれ、まー君だぁ」
「何しとんの、お前?」
「いやぁ、紅葉狩り、みたいな?」
前から歩いてきた同い年くらいの男女と、マサキは足を止めて仲良く話し出す。
そういうことか、と紗香は足を止めずに、マサキの横を通り過ぎる。
いい子に、いい子に。
そう自分に言い聞かせて、うつむいて歩いた。
いちめんに敷き詰められた砂利に、真っ赤な紅葉が何枚も落ちている。