Devil's Night
「だ、誰がやったの? こんなひどいこと」
何とか自分を奮いたたせて少年に聞いたけれど、彼は意味ありげに笑うだけで答えない。大怪我をしているとは思えない落ち着き払った態度。
――痛すぎて、おかしくなっちゃってるのかな。
「誰か呼んでくる!」
そう叫んで、這うようにしてゴーストアパートを出た。走って家に向かう途中、何度も転んで、膝や手をすりむいた。あせりすぎて、手足が他人の物みたいにうまく動かない。
いつもは近すぎると思っているゴーストアパートから家までの距離が、今日はやけに遠い。やっと辿り着いた自宅の玄関に駆けこみ、私は大声で叫んだ。
「お母さん! 救急車! 早く!」
エプロンで手をふきながら玄関まで来た母は、傷だらけの私を見て悲鳴のような声を上げた。
「み、美月ッ……!」
うろたえる母に私は見たままを話したが、母は半信半疑だったのか、すぐには消防署に電話をかけようとしない。特に、その男の子が白衣を着ていたことを告げたあたりから、母の顔が訝しげに曇ったように思う。
「本当なの。すぐに救急車を呼んだ方がいいよ」