Devil's Night
――これって、現実?
そう思いながら見る目の前の彼は、困ったように、指先でこめかみの辺りをかいている。
「ひと目惚れとか……今までは、ありえないって思ってたんだけどね」
私と同じ気持ちを告白する彼のうしろに、迎えのバンが停まった。
「じゃ、気が向かなくても電話して」
彼は冗談ぽく笑って、ビルへと引き返した。
目の前で起きたことが、まだ信じられない。夢じゃないことを確かめるような気持ちで、もういちど、名刺を見る。
『東亜物産』
一部上場の大手商社だ。
『エネルギー資源開発課 主任 饗庭 省吾(あいば・しょうご)』
この名刺を渡すためだけに、わざわざ来てくれたんだろうか。
――嬉しい……。
ようやく実感が湧き、涙はすっかり乾いて、スキップしたい気分に変わっていた。