Devil's Night
8. ラビリンス
【2011.10.30 コネチカット州 オールドグリニッジ】
「陽人と一緒に少し休んだ方がいい。何か動きがあったら呼ぶから」
夫に言われ、陽人を抱いて寝室に入った。
窓の外はもう真っ暗になっている。絵莉花は何か食べさせてもらっただろうか。身代金を要求する電話でも何でもいいから、絵莉花の声が聞きたい。また、胸が熱くなり、涙が込みあげてくる。
「ママ、どうしたの?」
幼い息子の不安げな顔に、私は首を振り、
「何でもないよ」
と、笑って見せた。
陽人を寝かしつけるために、私もベッドへ上がった。
「エリちゃんは?」
屈託のない無邪気な瞳が、家に姉のいない理由を聞いてくる。
「すぐ戻ってくるからね」
自分にも言い聞かせながら、陽人の背中を優しく叩くと、陽人はすぐに寝息を立て始めた。無理もない。こんなに遅くまで外にいたことなどないのだから。