Devil's Night
9. ダート
【2002.7.20 東京】
カイは見とれるほど美麗な青年に成長していた。
目許には外国の少女と見紛うような繊細な美しさを残しながらも、輪郭や鼻筋に男性的なシャープさが加わっている。
『みづき』
ふと目を伏せた彼の、慈しむような視線に捕えられた。その瞳を見て、梁に吊るされたふたつの死体が脳裏に浮かび、あっという間に過去へ引き戻される。
あの夜のことを生々しく思い出し、恐怖に体がすくむ。
『おいで』
2階から投げられた声は、私の耳まで届かなかった。けれど、その唇が、確かにその形に動いた。
迷った……。本当はこのまま通りすぎたい。が、私のために殺人を犯してしまった人間を無視することは許されないような気がする。