Devil's Night
11. アゲイン
 
 額のアザを前髪で隠して帰宅した。


「おかえり」


 この3日間で急激にやつれた夫が、それでも優しく微笑む。


「遅かったね」


 そのひとことから、夫の不安が伝わってくる。……帰宅が少し遅れただけで。


 事故に遭いかけたことは言えなかった。


「陽人、ただの風邪でした」


「そうか、よかった」


 青い顔ににじむ安堵が痛々しい。これ以上、夫の心労を増やしたくないと思うけれど、行方不明の娘を残したままアメリカを去る決心がつかない。その日の夜遅くまで考えた末、私は決断した。


「やっぱり私、日本で省吾さんからの連絡を待ちます」


 夫は小さく「うん」とうなずいたが、それ以上、何も言わなかった。
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