Devil's Night
空港の中は空いていて、手荷物検査も出国審査もすぐに終わった。出発までまだ1時間ほどある。
「ハル。のど、かわいたね」
「うん!」
航空会社のラウンジへ行き、陽人にジュースを飲ませることにした。
「あれ? 美月?」
自分のコーヒーを取りに立ち上がったとき、声をかけられた。
「香織?」
1年前に帰国したときに会って以来の、幼なじみの顔がある。まさかこんな所で会うと思わなかったので、ただただ驚いた。
「何で……?」
私の言葉に香織は、
「実はハネムーンなんだぁ」
と、はにかむように笑う。
「ほんとに?」
香織が結婚したという話は聞いておらず、狐につままれたような気持ちだ。
「前に会ったとき、そんな話、してなかったじゃない」
「ごめんね。急に決まって……。彼、忙しい人で、結婚式もまだなの。けど、こっちで学会があったから、新婚旅行も兼ねてついて来ちゃったの」
「そ、そう……なんだ……」
唖然とする私に、香織がおどけるように手を合わせ、拝む仕種で
「披露宴にはちゃんと招待するから、許してぇ」
と、本当に嬉しそうな顔で言う。
「美月。私の旦那様、紹介するから来て」
「う、うん……」
以前の私なら、香織と手を取り合って喜んだはずなのに、今の私はうまく笑うことさえできない。不幸のどん底にいる私と、幸福の絶頂にいる香織……。