Devil's Night
私は乗務員の体を押しのけるようにして、ファーストクラスのキャビンへと走った。
「あ、お客様?」
追いすがってくる乗務員を無視して、仕切りのカーテンを手で引く。カイの姿が見えた。香織の方を向いて笑っている。
「カイ! ハルを返して!」
陽人を連れ去ったのがカイだと決めつけ、発作的に叫んでいた。
「美月?」
私の剣幕に驚いたような顔の香織の膝の上に、陽人がちょこんと乗っている。
「え?」
「ごめぇん。さっき、美月の席に行ったら、美月、寝てて。ハルくん、私を見て勝手について来ちゃったの」
香織が申し訳なさそうに苦笑している。
「そう……だったの……」
香織の腕から陽人を受け取り、抱きしめた。涙が出るほど安堵した。
「ハル……ハル……」
この子まで消えてしまったら私は……。
陽人の額に自分の頬を押しつける私を、カイの目がじっと見ているのに気づいた。その、全てを見透かすような、冷たい瞳にゾッとする。