Devil's Night
 
 1時間近く待合室で待たされ、その間もずっと私に抱っこされている陽人は、大好きな金魚の泳ぐ水槽にも全く興味を示さず、だるそうにしている。


「饗庭さーん」


 やっと名前を呼ばれ、診察室に入った。機嫌が悪く、私から離れようとしない陽人を抱いたまま丸椅子に座る。


 優しそうな初老のお医者さんだった。


「はい。お胸、トントンしようね」


 最初は微笑みながら聴診器を当てていた医師の顔が、だんだん険しくなっていき、何度も何度も陽人の胸に聴診器を押しあてていた。その様子を見ていると、何だか胸騒ぎがしてくる。


「心エコー、準備して」


医師が早口で、後ろの看護師に指示するのを聞き、ドキリとした。
< 206 / 359 >

この作品をシェア

pagetop