Devil's Night
「饗庭さん、どうぞ」
再び呼ばれて入った診察室では、医師が深刻そうな顔をして待っていた。
「お子さんは突発性拘束型心筋症です」
「突発性……拘束型……心筋症……」
医師の診断を反芻してみるものの、ピンとこない。
「拘束型心筋症とは、心臓の筋肉が硬くなる病気です」
年配の医師が心臓の模型を片手に、説明を始めた。
「簡単にいうと、心臓に戻る血液を受け入れることが難しくなる病気なんです」
それを聞いても、理解できない。
「お母さん。落ち着いて聞いてくださいね」
その前置きに緊張する私の耳に、医師が矢継ぎ早に発する恐ろしい言葉が、洪水のように流れこんでくる。そして、それらの中に混ざっていた
「発症すると患者さんのおよそ5割が、1年以内に死亡してしまう病気です」
という言葉だけが頭に渦巻くように残った。