Devil's Night
「もう時間だ」
夫があわただしく言った。電話の向こうが騒がしい。強い口調の英語が飛び交い、緊迫したリビングの空気がこっちにまで伝わってきた。FBIがウロウロする居間の風景を思い出す。
「気をつけて」
「ああ。ガードがついてるから、こっちは大丈夫だ。そっちは変わりない?」
こんな重大な局面にいる夫を動揺させるのが怖くて、陽人のことは言えなかった。
「ええ……。大丈夫……です」
「それじゃ。行ってくる」
何の余韻もなく、電話が切られる。私は、夫と絵莉花の無事を祈りながら、ケータイをたたんだ。