Devil's Night
 
「だが、さっきも電話で絵莉花の無事は確認できた。『リリちゃんが一緒だから平気』って笑ってたよ」


 絵莉花は時々、こちらが驚くほどの気丈さを見せることがある。少しだけ安心した。


「陽人は?」


 いきなり尋ねられ、ドキリと心臓が踊る。 


『誰かに話した時点で、この取引は無効です』


 院長の脅迫めいた強い視線が、脳裏によみがえる。


「ね、寝ています……」


 咄嗟にウソをついた。


「そうか」


 声を聞きたかったのだろう、夫は少し残念そうだった。


「今度こそ絵莉花を取り戻すから。陽人のこと、頼む」


私はこの病院に入る決心すらつかないまま、
「はい……」
と答えてケータイをたたんだ。
< 226 / 359 >

この作品をシェア

pagetop