Devil's Night
 
「あれは私じゃないわ!」


 階段を上っている途中で聞こえてきた、そのヒステリックな声に足が止まる。


「あんな子、私に全然似てないじゃない!」


 感情的に叫ぶ女の子に、カイが
「リア」
と、静かに呼びかける。


「完全じゃないけど、あれがおまえなんだよ」


 なだめるような声が続く。


――リアって、誰?


 カイの口から出たのは聞いたこともない名前なのに、どこか懐かしい響きを持っている。
 私は緊張しながら、さらに階段を上がった。カイと女の子の会話を聞きながら。


「最初の蘇生の途中で、お前の心の一部と、記憶の全てが欠落したんだ。説明したろ?」


「私の方が一部だというの?」


 だんだん言い争うような雰囲気になってきた。


「どちらが一部なのかは僕にもわからないよ。ただ、お前には過去の記憶があり、彼女にはない。けど、そんなことは問題じゃない」


――何の話をしてるんだろう?


 怖いもの見たさで、私は残りの階段を一気に上がった。知らず知らずのうちに息を止め、ドアのすきまから2階をのぞく。でも、そこからも、カイの背中しか見えなかった。

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