Devil's Night
 
 私はふるえる足に力を込め、彼が指し示したソファの横に立ったが、向かいに座る勇気はなく、そこに立っているのが精いっぱいだった。


 警戒心を解くことができない私を見て、カイは失笑するように笑い、そして、静かに説明を始めた。


「このカルテと検査データを、ある場所に送る。そうすれば8時間以内に、約75%以上の確率でハルの体に適合するドナーがピックアップされる」


「そんなに早く……」


――アメリカでさえ、何か月も待たなくてはならないケースが多いというのに。しかも75%という数字は、血縁者に近い適合率だ。


「そのドナーは一体どこから……」


私の質問に、カイはニッと口角を持ち上げた。


「アジアの貧しい国から来る」


「え?」


「こちらがオーダーを入れてから、遅くとも2日以内にシンジケートの人間がここへ連れてくる」


あたかも通販の説明でもするような軽さ。


「まさか……。まさか、健康な子どもなんじゃ……」


彼は笑っていた。


「今は健康でも、いずれ若くして死ぬ子どもだ」


「どういうこと?」


「過酷な労働によって寿命を縮めるか、売春を強要されて病気になるか。きみが心臓を奪わなくても、遅かれ早かれ若くして失われる命なんだよ」


――そんな……。信じられない……。


カイが悪魔に見えた。
< 241 / 359 >

この作品をシェア

pagetop