Devil's Night
私はふるえる足に力を込め、彼が指し示したソファの横に立ったが、向かいに座る勇気はなく、そこに立っているのが精いっぱいだった。
警戒心を解くことができない私を見て、カイは失笑するように笑い、そして、静かに説明を始めた。
「このカルテと検査データを、ある場所に送る。そうすれば8時間以内に、約75%以上の確率でハルの体に適合するドナーがピックアップされる」
「そんなに早く……」
――アメリカでさえ、何か月も待たなくてはならないケースが多いというのに。しかも75%という数字は、血縁者に近い適合率だ。
「そのドナーは一体どこから……」
私の質問に、カイはニッと口角を持ち上げた。
「アジアの貧しい国から来る」
「え?」
「こちらがオーダーを入れてから、遅くとも2日以内にシンジケートの人間がここへ連れてくる」
あたかも通販の説明でもするような軽さ。
「まさか……。まさか、健康な子どもなんじゃ……」
彼は笑っていた。
「今は健康でも、いずれ若くして死ぬ子どもだ」
「どういうこと?」
「過酷な労働によって寿命を縮めるか、売春を強要されて病気になるか。きみが心臓を奪わなくても、遅かれ早かれ若くして失われる命なんだよ」
――そんな……。信じられない……。
カイが悪魔に見えた。