Devil's Night
物音を立てないよう角度を変え、扉の隙間から目を凝らして部屋の中をのぞく。けれど、室内にはカイ以外の姿が見えず、そのカイ本人も窓辺に寄りかかるように立っていて、その前に誰かいるとは思えない。それなのに、会話が続いていく。
「今の彼女に、おまえが入りこむ余地はない」
「どうして?」
「記憶のない彼女は純粋すぎる。一度に過去の記憶を与えたら、きっと心が壊れてしまう」
「じゃあ、どうするの?」
女の子の声が、再び問いつめるようなトーンを含み始めた。
「ゆっくり汚して、徐々に記憶を与える」
いつものカイとは思えない、冷たい口調。
――彼女って誰?
得体の知れない不安に、胸が押しつぶされそうだった。
「カイ。心変わりしたら許さないから」
女の子の声が低く響く。
「今度こそ必ずうまくやる。だから、おまえは僕を怒らせるな」
そう言った声からは、子どもには不似合いな迫力が感じられた。