Devil's Night
 
――ああ……。懐かしい……。その、ゴーストアパートにそっくりな家が。


 あの廃屋は、崩れる前はこんな形だったんだ、と思った途端、もう自分とリアの区別がつかなくなった。


 突然、リアの幼い日の記憶が、ほろ苦く切ない感情とともにフラッシュバックしてくる。


「いいかい? この森から出てはいけないよ」


 初老の男が私たちに言い含めるように言い、うしろを振り返りもしないで去っていく。こうやって私とカイは破産した養父によって、この森の中に置き去りにされたのだった。私が学校に上がる前のことだ。


 狼や野犬のいる迷路のような森の中をふたりでさまよい、誰も住んでいないこの古びた家を見つけた。そこは、昔、農夫が使っていた小屋だった。


 私たち兄妹はふたりだけで、ここで暮らした。


 数日後には、町へ出る道も見つけたが、カイは誰にも助けを求めなかった。


「リアと引き離されてしまうかも知れないから」


 それが修道院へ行かない理由だった。


 私自身は何も不自由はなかった。空腹になれば食べ物を、寒くなれば衣類を、カイが町から盗んできてくれたから。
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