Devil's Night
 
 いい思い出なんて何ひとつ残ってないのに、この場所が愛しい。ここでカイとじゃれあうように過ごした日々が。


――カイだけを信じ、愛してた。


 やっとの思いで懐かしい家の扉を開けたときには、背中の痛みは全身に回り、吐く息までが熱くなっていた。


「リア?」


 そこで待っていたカイの胸に、倒れかかるようにもたれた。


「リア!」


 驚いたようなカイの声が遠のいていく。


「兄さま……。背中が……熱いの……」


 うつ伏せにされ、布を噛まされた。


「がまんして」


 矢じりを引き抜こうとする強烈な痛みに、何度も悲鳴を上げた。
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