Devil's Night
ずっと家にいて、鳥かごの中を見ていることが増えた私……。
ケージの中には、誕生日に買ってもらった2羽のカナリア。黄色いのはレモンで、オレンジ色の方はミカンと名付けた。
臆病でなかなかカゴから出ようとしないミカンと違って、レモンは私の手や肩、頭にも乗ってくる。人懐っこいレモンも、時々しか手に乗ってこないミカンも、どちらも可愛い。
ミカンをカゴから出すことを諦め、その日はレモンだけを肩に乗せて、鳥カゴの中を掃除していた。庭に面した廊下のサッシを開け放したまま作業をしていても、レモンは逃げようとしない。穏やかに晴れ渡った空。あの空を飛べたらどんなに気持ちいいだろう。それなのに、ペットショップ生まれの2羽は、羽ばたく本能を忘れてしまったみたいにじっとしている。
ミカンの方は相変わらず、外の世界に怯えるように、カゴの止まり木でじっとしている。
私は台所へエサと水を取りに行った。
『バタッ。バサバサッ』
キッチンに入ろうとしたとき、廊下の方で鳥が騒ぐ気配を感じた。
「ミカン!?」
急いで廊下へ戻った。
「あっ!」
1匹の猫が鳥カゴの中に、体を半分突っこんでいる。
――カイの猫だ。
「ブルー! やめて!」
灰色の猫が、その前足でオレンジ色の羽を押さえつけている。
「ダメ!」
けれど、私が駆けよる前に、蒼い瞳の猫は小鳥をくわえて身を翻した。
「チ―――イ……ッ!」
ミカンの悲鳴にも似た鳴き声が響く。
「ダメぇーーーッ……」
『バサッ』
私の悲鳴に驚いたようにレモンが肩から飛び立った。空の広さを思い出したように逃げていく。
「レモン! 戻って!」
逃げていくカナリアに気をとられている隙に、猫は庭を駆け抜けていった。
「ブルー!」
猫はちらっと私を振り返ったが、そのままブロック塀を乗り越えて行った。ミカンをくわえたまま。
――ウソ……。
私は怒りと悲しみで泣きそうになりながら、家を飛び出し、ブルーの姿を探した。