Devil's Night
 
 男の頬がピクピクとふるえ始め、その喉仏がツバを飲み下すように、ゴクリと動く。カイを前にして、男は、ひどく緊張しているように見えた。


「頼む。もう俺を外してくれ」


 男の口から出た、ヤクザのような風貌には不似合いな懇願は、何かに怯えるように語尾が揺れている。


「おまえが僕の領域に踏みこんで来たんじゃないか。カネがほしいと言ったのもおまえだ」


「もうカネなんかいらない。頼む……」


「あきらめろ」


 そう言うと、カイは手にしていた紙袋を無造作に投げた。男がそれを胸に受け止めた拍子に、サングラスが顔から落ちる。その顔に何となく見覚えがあった。
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