Devil's Night
 
 当時、同級生の間では、この『ゴースト アパート』の内部をどれ位知っているかが、勇気のバロメーターになっていた。
 学校は生徒たちがゴーストアパートの中に入ることを禁止し、例えば、夏休み前の終業式では必ず、『絶対に近づかないように』と注意される。立ち入り禁止の理由は、もちろん廃屋にゴーストが住んでいるからではなく、『古くなった建物の内部は危ないから』だ。


 先生の言いつけを守らなかったクセに、その日1日、優太は英雄気どりで、
「ゴーストアパートの中って、草がボウボウでさぁ、見たこともないようなキレイな猫がいたんだ」
と言って、私にも話しかけてきた。


「ふうん。そうなんだ」


 怖い話なんて聞きたくないのに、相づちをうってしまう八方美人の私。


「そのきれいな灰色の猫はさぁ」


 おとなしく聞いていると、ますます調子に乗って、話を続ける優太。こんな話を聞いてしまったら、きっと夜、眠れなくなる。そう思うと憂鬱だった。


 結局、休み時間中、ずっと私の机に張りついてしゃべり続けていた優太が、午後になって高熱を出し、早退した。
 『呪いだ、呪いだ』とクラスは大騒ぎになったが、
「桜木くんはインフルエンザでした」
という先生の言葉で、この騒ぎはあっけなく収まり……。


「今年は流行の時期が早いみたいです。みんなも、うがいと手洗い、ちゃんとしてね」


「はぁ~い」


 クラスのみんなは、つまらなそうに返事をしていた。


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