Devil's Night
 
 その日のピアノ教室からの帰り道でのこと。


 私はレッスンが終わったあと、他の子とおしゃべりをしていたせいで、帰るのが遅くなった。


――もっと早く帰ればよかった。


 こんなときは、ゴーストアパートが見えてくると、必ず後悔してしまう。


 『昔、ここに住んでた人が相次いで自殺した』

 
 『ここに入ったまま行方不明になってる子どもがいる』


 建物の方をできるだけ見ないようにしていても、物騒なウワサばかり思い出す。けれど、役所に勤めている父は『そんな事実はない』と断言する。アパートとして使われたことも、人が住んでいたことも、ましてや失踪事件が起きたこともないのだそうだ。


 『この建物は戦後、穀物倉庫として使われていた。日光による種子の発芽を抑えるために窓が少ない』


 私は、いつものように、父から教えられた事実だけを呪文のように口の中で繰り返しながら、草の生い茂る敷地の前を通りすぎようとした。


< 5 / 359 >

この作品をシェア

pagetop