Devil's Night
 
 そして、彼女はカイをうっとりと見つめたまま、ひとりごとのように話し始める。


「北浦くんって、ウチの学校の生徒会長なんだ」


――生徒会長……。


 全校生徒の前で何か喋ったりする姿は、ふだん物静かなカイからは想像がつかない。が、数メートル離れた参考書のコーナーで本を手にしているのは、どう見てもカイだ。


「北浦くんのお父さん、総合病院の院長なんだって。学校にもいっぱい寄付とかしててね」


 香織は、カイがその病院長の養子であることを教えてくれた。そして、父親の跡を継ぐために、医学部進学を目指していることも。


「そうなんだ……」


 どうしても、家族や友だちの中にいるカイを想像できない。やっぱり、目の前の彼は別人なのだろうかと思ったりする。けど、名前も同じでこんなにそっくりだなんて……。


 確かめたい。


 が、思えば、私は彼の名字さえ教えてもらっていなかったのだ。それを考えると、私も彼に話しかけ、確かめることができなかった。
< 56 / 359 >

この作品をシェア

pagetop