Devil's Night
 
 前だけを見て、ゴーストアパートの前を通りすぎようとした時だった。


『う……うう……っ』


 不意に呻き声のようなものが聞こえ、反射的に足が止まった。そして、見たくないはずの方角へ自然と顔が向いてしまう。


『うう……』


 苦しんでいるような、むせび泣いているような、苦痛に満ちた声がする。背筋がゾクゾクしているのに、そこから逃げ出さなかったのは、それが男の子の声であるような気がしたから。
 一瞬、桜木優太が中にいるような気がした。


 優太は先生に付き添われて自宅に帰ったはずだとわかっているのに、悪い想像が止まらない。
 中は崩れやすく危険だから入らないように、と先生が言っていた。でも、もし、中で優太が動けなくなってたら……。倒れた柱の下敷きになっている桜木優太を想像し、青ざめた。
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