Devil's Night
 
 私が逃げ出したばっかりに、優太が死んでしまったりしたら……と、子どもながらに、クラスメイトを見捨てた後の罪悪感を考え、心が震えた。


――崩れた壁の間からのぞいてみよう。……そう。遠くから、ちょっとだけ。もし、優太が中で動けなくなってたら、お母さんに言って、救急車を呼んでもらおう。


 そう決めて、私は初めてゴーストアパートの敷地に足を踏み入れた。そっと建物に近づき、おそるおそる、その大きく崩れている壁から息を殺して中を見る。


 真っ暗な内部。屋根のない部分から、差し込む月明かり。
 中はこんな風になってたんだ、と息を飲む。まるで、映画に出てくる外国の古い家屋みたいだ。


 ゴーストアパートにまつわるウワサを全て否定した父が、『あの建物が不思議なのは、造りが中世ヨーロッパの建築様式に似ているところかな』と、ひとりごとのようにつぶやいていたのを思い出す。


「う……う……」


 また聞こえてきたうめき声にドキドキしながら、声のする辺りに目を凝らすと、そこは意外なほど明るかった。


 いた。


 小学生くらいの男の子が、部屋の隅で毛布にくるまっている。でも、一目で優太じゃないとわかった。
 見えたのは頭だけだったが、こんな緩やかなウェーブのかかった髪を持つ男子はクラスメイトの中にいない。

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