Devil's Night
 
 夫は色々な物が散乱する個室の前に立ち、呆然と中を見ている。


――絵莉花……。


 私は娘の幻に手を触れるような気持ちで、床に落ちているワンピースへと、無意識に手を伸ばしていた。


「美月、触るな」


 すぐに、夫の鋭い声に制止される。


「この現場ときみが見た女だけが手がかりなんだ。触るんじゃない」


 私は夫の冷静さにすがりつきたい気持ちだった。


「陽人を見ててくれ。警備に連絡してくる」


 夫がいなくなり、絵莉花が連れ去られた場所に残された私は、激しい自己嫌悪にさいなまれていた。


――いくら髪を金色に染められてたとは言え、どうして連れ去られる我が子に気付かなかったんだろう  。私はあの子の母親なのに……。


 嗚咽をこらえられない私を、陽人が心配そうに見上げてくる。


「ママぁ?」


 私は不安そうな顔の陽人を強く抱きしめた。


『ニャア』


 ふと、扉の外で猫の鳴き声が聞こえたような気がした。


『ニャア……』


 カナリアの時のように、カイの猫が絵莉花を連れ去ったような気がして、背筋が凍った。

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