Devil's Night
「美月」
戻ってきた夫が、私の腕から陽人を抱き取る。
「警備室で絵莉花が見つかるのを待とう。警察にも連絡してもらって、もう検問が始まってるから。きっと見つかる」
夫の力強い言葉にうなずいて涙をぬぐい、彼の後に従った。
本当は、絵莉花の名前を叫び、探し回りたい。けれど、そんなことをすれば夫を不安にさせるだけだ。
「確か、楽器店の前で似顔絵を描いてたな」
前を歩いていた夫が、ふと思いついたようにつぶやいた。
「記憶が鮮明なうちに、犯人の顔を形にしたほうがいい」
という夫の提案で、絵描きを警備室に呼んでもらい、私の記憶を元に、犯人と思われる黒人女性の似顔絵を作ってもらった。服装、体型、髪型……全てを伝え終えると、もう私にできることは何もなくなった。
苦しいほどの不安と焦燥を抱え、警備室の隅に座る。