俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
お弁当の後、お菓子代わりにバナナを食べていた。
バナナを食べているときだけは、何故だかとても落ち着くのだ。

まぁ、そのせいで殿にバナナって呼ばれてるんだけど、こればかりは辞められない。

「バナナ」

そう、バナナって……。

「きゃあっ」

俺の方に突然、クラスの女子たちの歓声が上がる。
まさか俺に向かってってわけじゃないだろうから……と、嫌な予感そのままに視線をあげる。

そこには、後輩のクラスに我が物顔で入ってきた上に、波止場に佇む男を髣髴とさせるかのような肩膝を曲げ、そこに腕を乗せさらにその手に顎すら乗せてポージングを取っている、殿が居た。

分からん。
この姿を見て、黄色い歓声を上げられる女性の感性がまるで分からん……。
いや、もしかしたら黄色い歓声でなく、道端で変態を見たときにあげる悲鳴と同種なのかもしれない。うん、そう考えるほうが自然だ。

「っていうか、何しに来たんですか?」

俺の質問は至極もっともだったと思う。
のに。

「分からないのか、バナナ」

と、先輩は大仰に驚いて見せた。
天まで仰ぐほど驚かせるようなことは、俺、何も言ってないつもりなんだけど。

「うっそ、どうしてここに殿が?」

「あの人、本当に容姿だけは素敵よね」

「うん、見ている分だけには全く持っていいと思うわ、私も」

なんていうクラスの女子のひそひそ声にもにっこり笑顔と愛想を振りまき、いまどきアイドルでもしないんじゃないかと思われるようなウインク及びひらひらと肩から手を振るポーズなどなどを盛大に見せびらかしている先輩の背中を押して教室を出る。

はぁ。
ついにクラスメイトに、俺が先輩と親しいことがバレてしまった……。

今日は本当に、なんて最悪な日なんだろう。
< 14 / 50 >

この作品をシェア

pagetop