俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
かちゃり、と、生徒会室の扉を開ける。

ぼんやりと薄暗い部屋の机に向かって、一人、座っている男。

「あの……お待たせしました……」

シルエットだけでもめちゃくちゃかっこいいっつーのは、どういうわけなんだろ。
俺はとりあえず、電気をつける。

くっと、そのシルエットだけでもいけてる男、いや、それ【だけ】のほうがずっといけてる良い男、殿が顔をあげた。
にこり、と、優雅な笑みを浮かべる。

「いや、待ってないよ」

う、嘘だろう?!
俺は人が変わった様な穏やかな物腰とその言葉に、ごくりと唾を飲んだ。

「やぁ、俺のマイスイートハニー、ようやく来てくれたね」

かたん、と。
殿が椅子から立ち上がる。

その姿たるや貴公子の如く、だ。

「でも、もう大丈夫。
用は済んだ。
後は学校の承認を得るだけだ。頑張ろうね、料理研究部」

耳を蕩けさせるような甘いテノールの声。
この人普通に喋ったら、こんなに素敵な声だったんだ。

俺は、妙なことに感心している。

「……なんですって?」

巫女さんの顔が急激に強張る。

料理研究部、あ、風水研究部を諦めてくれるのかな!
俺の心がちょっとだけ躍る。だって料理研究部と言えば、あれだろ?バナナケーキを作ったり、バナナパイを作ったり、バナナジュースを作ったりして食べまくるという夢のような部活だ。そっちだったら、迷わず入部届けにサインするぜ!


「ちょっと、巫女。
なんかオカシイ気がする」

ずっと腕組みしていた剣道さんが、それを解いて言った。

俺は言葉を失う。
おかしいのは最初からだろ?
今が一番まともに見えるぞ、俺にとっては。
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