俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
ツカツカツカと、遠慮もなく剣道さんは歩いていって、背が高い殿の耳をずんと引っ張った。

「痛い痛い、俺の綺麗な耳に傷がついたらどーすんだ」

とでも言うかと思ったが、そんなこともなく殿は身をかがめる。
剣道さんがその耳に何事か囁いた。

が、特にどうということもなく、殿は凪いだ海のように穏やかに微笑んでいる。
うーん、この人、普通にしていたらめっちゃ良い男じゃないですか。

が、剣道さんは真冬の海に放り投げられた子猫のようにぶるぶる震えて、一目散に出口のほうまでやってきた。

「ちょっと来て」

俺と巫女さんの手を引っ張って、いったん生徒会室から出る。

「どうしたの?ドウちゃん」

「あのさ、私霊感ないから霊は見えないんだけど」

深刻そうな顔で、おかしな前振りをする剣道さん。
しかし、目はおそろしく据わっていた。

「殿、とりつかれてない?」

えええええ?!

あの人って、霊にとりつかれるとまともな人になるの?
巫女さんは動じることもなく、むしろ、ほんわりと笑って見せる始末。

余裕だなぁ。なんて、俺はよくわからないままに感心していた。

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