俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
びゅん

俺と殿の中間を、またしても何かが突っ切っていった。
な……これは、何?

顔をあげると、10メートルも離れてないところで、巫女さんが真面目な顔をして弓を射っていた。

形の良い唇を真一文字に結び、その黒目がちの瞳はずんと据わっていた。
艶やかな長い黒髪は風に煽られ綺麗に後ろへと流れている。
制服に弓っていうのも、こう、なかなかソソるじゃないですか!!やっぱりこれは、美女だからですかね?

そこまで観察してからふと我に返る。

いや、こんだけ近いんだったら当てて貰っても……いいんじゃないですかね。
もちろん、俺じゃなくてターゲットに。

しかし、巫女さんは至極真面目に、その弓の先を俺の方に向けている。

ままままま待ってください!!
俺、霊なんてついてませんけど?!

俺は慌ててそこを飛び退き、写真部のお宝デジイチを首から下げた。
つつーっと、頬に感じる汗と思いしものをタオルで拭う。

うげ。
白いタオルには、真っ赤な血がぺっとりと付いていた。

最初だ。
最初に頬を掠めたあの矢が、俺の頬に傷をつけたんだ。

「うわ……。
大丈夫?バナナ。
顔から血が出てるけど」

殿は冷静にそう言うと、ぐるりと屋上を見渡して

「こっちだと逆光だから……。俺はこっちに立てばいいんだな」

と、立ち位置の検討を始めていた。

待て、気づけ。狙われているのはアナタですよ!!
……と突っ込みたくなったが、考えを改める。

そうか、気づかないほうがいいのか。

逃げなければ、そのうち巫女さんだって矢を当てることができるだろう。
霊に関してはさっぱり素人の俺には、それを何のためにやっているのかはいまいちよく分からんが。

除霊?
出来ればそうあってほしい。
まさか、突然屋上で弓道の練習がしたくなったの、なんて笑顔で言われてはたまらない。

ま、まぁあのたまらない笑顔で言われるなら……文句の一つも言わずに、許してしまうとは思うけど。仮に俺の身体をその矢が遠慮なく貫いたとしても、だ。

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