俺の先輩自称殿−本当のお名前なんですか?‐
巫女さんは、はっと口を噤(つぐ)む。
そして、泣き出しそうな瞳で唇を開いた。

「でも、私そんな軽いノリじゃ嫌なんです。
もっと真剣に除霊したい人が集まってくれないとっ」

「大丈夫だって。風水研究部はあくまで表向き。
俺が誰にも破れない鉄則マニュアルを作って部員を統制してやるっ」

殿の端麗な横顔に漲る闘志と、いまどき青春ドラマでも見かけないような拳を上に突き上げる様は半端じゃない。
剣道さんはやっぱり真面目な顔で、うんうんと頷いてるし……。

これ、音声なしで見たらかなり真剣に白熱した重要な会議にしか見えないけど、さぁ。うん、確かに美男美女が顔をつき合わせて熱心に話し合ってるよ。もうすぐ潰れるっていう会社の役員たちですらここまで真顔で話し合えるかどうか疑問なくらいにさ、そりゃもう、鬼気迫る感じすら漂ってるもん。

だけど、さ。
落ち着いてよ、先輩方。
話し合ってる内容、どう考えても普通じゃないし。

ああ、俺が後輩じゃなければここで茶々の一つでも入れられるってもんなのに。

傍から見たら今の俺、真剣な会議に入って行けず、一人、何度も何度も汗を拭っているただのデブ……、なんだろうな。

やれやれ。
少し静かになったのを見計らって、口を開く。

「でも、殿。
写真部はどうするんですか?」

曲がりなりにも写真部部長だ。掛け持ちするなんて……

「掛け持ちするに決まってんだろ。
お前もな」

殿は、心配するなとでも言うようにキランと白い歯を見せる。

「……は?」

お、俺も?
いつの間に、俺も?

「まぁ、心強いわ。ありがとう、バナナくん」

絶世の美女にお願いをされて微笑まれた時、それを断る方法なんて俺には身についちゃいなかった。

「い、いえ。巫女さんのお役に立てるなら、ハイ……」


こうして、それでなくても悪い方だった俺の運勢は、さらに拍車がかかったように悪いほうへ悪いほうへと周り出したのだった。



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