僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「おーい、達筆! お前そんなところでなに俺に見とれてるんだ?
わかる、わかるぞ、その気持ち。
俺だって、朝鏡の中の俺に見とれて気づいたら翌日の朝、なんてしょっちゅうなんだから」

 殿は、部室の中から顔を出して、100万ドルの微笑みを廊下で呆然とする僕に投げかける。僕が女だったら、絶対惚れてる。この笑顔だけ見れば。

 しかし、しょっちゅうって、あなた、仕事どうしてるんですか?「鏡の中の俺に見とれてて、つい――」とか本気で校長に訴えてそうだ。

 ま、まあ、この人も大人だからな。「実は高熱が出て――」とか言い訳してるんだろう。……初対面に近い僕が言うのもなんだが、この人、自分を愛する熱に浮かされてるし、このナルシスト具合はもう病気に近いから、その言い訳、あながち嘘じゃないってところが凄い。

 早く入って来いという、殿の声に溜め息で答え、僕は『風水研究部』の部室に足を踏み入れた。 

「巫女ちゃん、あれが今年の新入部員の達筆だ」

 殿は、巫女ちゃんと呼ばれた美しい人の肩にさりげなく腕を回すが、淡雪をすりこんだような白い手の甲でさりげなく落とされた。それを目の当たりにして、僕の心はすっとした。(いい気味だな、殿)

 よれよりちょっと、殿。紹介『達筆』だけですか? いや、いいか。わざわざ本名を暴露してウケを狙うこともあるまい。というか、新入部員っていう紹介が腑に落ちない。……早く退部しよう。

「達筆……、それじゃあ、私は巫女ね。
私、巫女っていうの。よろしく、達筆くん」

 優雅な仕草で首を少し傾け、山奥の誰も知らない湖のような透き通った微笑を浮かべる。ああ、なんて美しいんだ。

 それに巫女さん、素敵な名前だ!確かに彼女の白さは、神社の鳥居がよく似合う……って巫女? 本名?

 あまりの美しさに惑わされて気づかなかったが、巫女さん、「それじゃあ」って言ってなかったか? 他に名前がありそうな言い方だったぞ。
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