僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「私はミョウガのほうが好き」

 天女を思わせる微笑でそう口走る巫女さんに「僕はほんれん草派です」と広大なほうれん草畑を所有してそうな派閥を作って口を合わせたほうがいいのだろうか。

「なんだ、ミョウガなら、実家の裏に山ほど生息しているよ。
今度俺と一緒にリボンをかけて、巫女ちゃんにプレゼントするよ」

 気を立て直した(といっても元が警察に引き渡したいくらいの変人だが)殿が、無駄口を叩く。

「わあ。嬉しいわ。でも殿は余計だわ。うちのゴミ箱に入らないもの」

 巫女さんは、あくまでも笑顔。しかも純粋に喜んでいるようにしか見えない。
 それなのにプレゼントされた殿を確実に捨てようとしている発言だ。すごい。

「そうだね、巫女ちゃんの部屋のベッド、ダブルに買い換えなきゃいけないもんね」

 殿の耳、都合の悪い発言はシャットアウトされるように出来ているのだろう、殿もはち切れんばかりの笑顔で僕の頭を捻らせる。

「あら、敷布団よ」

「そうか、でも、それはどちらでも構わないと思うよ。愛し合うことにかわりはないしね」

「それは駄目よ。私、畳みの上じゃないと落ち着かないもの」

「巫女ちゃんって、案外お茶目なんだね。そんなに寝相が悪いんだ。
でも、そんな巫女ちゃんも素敵だよ」

 ……誰かこの二人を止めてくれないか?

 その祈りは、天に届いたようで。

「ナ……殿、耳障りです。
達筆くん、はじめまして、あたし、『空手』。
よろしく!」

 ショートカットのその人は、勢いよく僕の前に手を差し出した。握手。
 なんだか、退部したい、なんて言えない雰囲気になってきた。

 『空手』さん……。もう名前について言及するのは止めておこう。本人がそう言っているのだからいいではないか、という諦めの極地に立った冒険家になったような気持ちに。つまり、もう面倒くさい。

 しかし、あれだ。もっと部員がいれば、もしかしたら簡単に退部できるかもしれないぞ。

「殿、部員ってこれだけですか?」

 何故かそこにある姿見の前で右手は後頭部、左手は腰という、昨今のグラビア界でもなかなか見れないポーズをとっている殿に、躊躇しながらもしかたなく声をかけた。
 

 

 
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