僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
 優雅な足取りで部室を後にする、巫女さんと殿の理想的な身長差がかもし出す絵になる後姿をしばし眺めた後、僕は、世にも恐ろしいことを耳にした。

「今年の餌食はキミか、達筆。明日から始まるナルのネチネチ指導に備えて、今のうちにカウンセリングの予約しておいた方がいいよ。」

「は――」

 ――い。ってちょっと、何さらっと恐ろしいことを口走ってるんですか、空手さん!

 今日の2時間スペシャルドラマ予約しておいた方がいいよ、ばりに言うから、思わず返事しそうになっちゃったじゃないですか。
 
「最初の一年は……フフ……地獄」

 筆記さんは、眉ひとつ動かさず地を這うような声で呟く。
 こわっ! 言い方こわっ! 

 この人、怪談話選手権があったら、絶対優勝するよ。溜めの間に「フフ」とか入っちゃってたし、もう、その道のプロだよ。
 終いには、水木しげる先生から特別審査委員賞ももらって、ダブル受賞だよ!!

「ボ、ボクは、ま、まだ、精神安定剤が、手、手放せないんだな」

 そう言って、ピゲさんは、白い錠剤をボリボリ食べる。
 え? 食べるっておかしくない? 「用法容量はお医者さんの指示に従って正しく」って――大丈夫ですか!? ピゲさん! なんか目つきがおかしくなってきてますよ!

 ああ、違いますって! 僕は、殿じゃありませんって、だから、ね? ほら、僕、眼鏡かけてますし、見た目だってこんなにイケてないんですよって……ギャアァァァァァ!!


~お見苦しいためしばし車窓風景をお楽しみ下さい~
(BGM:ルールルールール、ルールルールール、ルルルールール……)


 はあっ、はあっ、はあ……。
 なんだったんだ、今のは……。

 忘れよう。うん、それ以前に早く退部しよう。駄目だ。こんなところにいたら、余計不幸になる。
 この部室、薄暗いし、なぜか天井に赤字で星印がかいてあるし、目を凝らすと部屋の四隅に盛り塩してあるし、棚の上には蝋燭がいっぱいだし、しかも、長時間使用した形跡があるし。怪しすぎる。

 乱れに乱れた制服を直して、深呼吸。そして、おもむろに部長である速記さんに体を向きなおした。

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