僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「あの……、非常にいい難いのですが……。
僕、あの、殿に騙されて、その、入部したんですよ。
だから、その、僕は退部って方向で……」
一瞬、速記さんの目の奥が怪しく光った。ような気がした。
「ここにいる皆は……全員ナルに騙されて入部した……」
速記さんは一層低い声で呟いた。言葉尻に「ナル、死ね」って聞えたような気がするが、ここは、あえて聞えなかったことにしておこう。
速記さんもピ、ピゲさんも空手さんも騙されたってこと? (良い奴男さんは、ずっと留年してるからわからないけど)
「退部、ねえ。退部できたら、とっくにしてるって。
だって、顧問があのナルだよ?
1時間も一緒にいたら、眩暈と吐き気と頭痛と不整脈がいっぺんに襲ってくるんだから」
空手さんはそう言いながら、部屋の隅に無造作に置いてあったダンボールから、薄汚れたくまのぬいぐるみを取り出した。
大きさは耳から足までざっと90センチくらい。それを壁に寄りかからせるように座らせると、いきなり蹴りだした。
「セイ! セイ! セイ!」
壁に追い詰められたくまのぬいぐるみが、ばふ、ばふ、と蹴られるたびに跳ね上がる。顔ばかり狙われているようだから、ぬいぐるみとしてはたまったもんじゃないだろう。
まあ、空手、というあだ名(たぶん。そこは言及しない)をつけられるくらいだから、空手の練習をしているんだろうと、思って遠くから見守ることにした。
実際は、その鬼気迫る気迫に、僕は怖気づいてしまったのだけれど、そこはあまりつっこまないでほしい。
しかし、回数を重ねるごとに、その掛け声に変化が生じてきた。
「バカ! くたばれ! マヌケ! トンマ! お前のかーちゃんデベソ!」
その哀れなぬいぐるみをよくよく見ると、薄汚れたそのボディに、ペンキのようなもので「ナル」と書かれていた。
お、おそろしいことこの上ない……。
しかし、一番恐ろしいのは、空手さんの気持ちを理解してしまった僕のこころと言えるのではなかろうか。
僕、あの、殿に騙されて、その、入部したんですよ。
だから、その、僕は退部って方向で……」
一瞬、速記さんの目の奥が怪しく光った。ような気がした。
「ここにいる皆は……全員ナルに騙されて入部した……」
速記さんは一層低い声で呟いた。言葉尻に「ナル、死ね」って聞えたような気がするが、ここは、あえて聞えなかったことにしておこう。
速記さんもピ、ピゲさんも空手さんも騙されたってこと? (良い奴男さんは、ずっと留年してるからわからないけど)
「退部、ねえ。退部できたら、とっくにしてるって。
だって、顧問があのナルだよ?
1時間も一緒にいたら、眩暈と吐き気と頭痛と不整脈がいっぺんに襲ってくるんだから」
空手さんはそう言いながら、部屋の隅に無造作に置いてあったダンボールから、薄汚れたくまのぬいぐるみを取り出した。
大きさは耳から足までざっと90センチくらい。それを壁に寄りかからせるように座らせると、いきなり蹴りだした。
「セイ! セイ! セイ!」
壁に追い詰められたくまのぬいぐるみが、ばふ、ばふ、と蹴られるたびに跳ね上がる。顔ばかり狙われているようだから、ぬいぐるみとしてはたまったもんじゃないだろう。
まあ、空手、というあだ名(たぶん。そこは言及しない)をつけられるくらいだから、空手の練習をしているんだろうと、思って遠くから見守ることにした。
実際は、その鬼気迫る気迫に、僕は怖気づいてしまったのだけれど、そこはあまりつっこまないでほしい。
しかし、回数を重ねるごとに、その掛け声に変化が生じてきた。
「バカ! くたばれ! マヌケ! トンマ! お前のかーちゃんデベソ!」
その哀れなぬいぐるみをよくよく見ると、薄汚れたそのボディに、ペンキのようなもので「ナル」と書かれていた。
お、おそろしいことこの上ない……。
しかし、一番恐ろしいのは、空手さんの気持ちを理解してしまった僕のこころと言えるのではなかろうか。