僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「さっき巫女ちゃんから電話があってさ、達筆をつれてきてくれってさ」

 え……。
 この人と、外を歩けということか?
 か、勘弁してほしい。校内だって、ご遠慮したいのに、外なんか歩けるか。

「良かったな、達筆。
この俺と一緒に歩けば、注目度100パーセントだぞ」

 今わかった。ナルシストとポジティブシンキングは、間違いなく同意語だ。もう完全にイコールで結ばれる。上下に点なんかつけられないほど、激しく同じ意味だ。
 
 注目……ある意味、ね。というか、奇異な視線しかいただけないはずだ。

 そうだろう? こんな頭のおかしい格好をしている人を見かけたら誰だって振り向く。振り向くどころか、3度見は確実にされるだろう。
 所見で目を丸くし、すれ違いざまにガン見、振り返って哀れみの視線、というふうに。

 いやだ。何より、この人の知り合いだと思われるのがどうしても嫌だ。

 でも、せっかく巫女さんにお誘いを受けたんだ。これを断ったら、もう一生あんな美女にお誘いどころか、声すら掛けられないのではないか?

 巫女さんの、眩しい微笑みが脳裏に浮かぶ。ああ、駄目だ。あのお方を裏切ることはできない!!

 ……殿も人の端くれだ。
 まさかこんな格好で学校にきたりしないだろう。

「ほら、モタモタすんなよ。
早く、玄関に行くぞ」

「え!? 殿、その……着替えとかは……?」

「着替え? 見てわかるだろう? もう済ませてきたさ」

 これが通勤スタイルですかぁっ!?
 この格好で、朝、通勤してきたってことですか!?

 こ、この人は、僕の想像の許容範囲を楽々飛び越えやがった。
 猛烈な眩暈が僕を襲う。

「まったく。この場に来て、まだ踏ん切りがつかないのか?
大丈夫だよ。街中の女の子たちが見とれるのは俺で、達筆なんか眼中にないから。
だからさ、俺と比べられたら……なんて心配しなくて平気さ」

 殿は顔を斜に構え、言葉の最後の「平気」のときに、ピースの人差し指と中指をくっつけた2本を己のコメカミにくっつけると、「さ」で僕に何かを飛ばすようにその不思議なピースを僕にビシっと向けた。

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