僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
 こんなことは、不運とは言わない。そう、これは、歯肉炎、歯槽膿漏にならないように荒塩で歯を磨けという思し召しに違いない。

 海に潜った心地で歯を磨く。これによって、ちょっと、朝食を遠慮したいと思うのは、寝坊した身分としては調度いい。

 なんだ、今日は、随分とついているじゃないか……ということにしておいてくれ。


 家を出て、僕の知るかぎり一番正確で 一番身近な時計、携帯電話を開く。

 大丈夫。昨日のうちに充電し、さらにブレザーのポケットに入れておいた。

 ……7:10ってどういうこと?

 目覚まし時計、全て壊れてたってわけですか。なるほど。

 ついてる。今日はついてるぞ!!

 この調子で行けば、人生ではじめて入学式の椅子に座れるかもしれない。
 さらに言うなら校長の話で「長いし、ハゲて眩しいし(予想)」なんて愚痴をこぼせるもしれない。

 なんて清々しい朝なんだ!! 天気は快晴。肌寒さが残る風はなんとも爽やか。

 遅刻?
 なにそれ!? 入学式が始まるまでまだまだ時間はあるんだ!

 いや、まてよ。おかしくないか?
 何がおかしいって、この僕がこのまま何もなく登校出来たことが今まであっただろうか。

 よし、ここは、いつもに増して慎重に……。

 目指すバス停は大通りに出て、歩道の先50メートル。
 上下左右後方、周りをよく見てすすむ。

 下着泥棒に間違われようが、空き巣の下見に間違われようが、この際構わない。だって、今日は、入学式なんだ!!

 あれ、着いてしまった。

 何事もなく……、上空から植木鉢が落ちてくることも、スズメバチの大群に襲われることも、迷子の子供に遭遇することも、蓋が開いたマンホールに足を滑らせることも、5匹のスピッツに一斉に吠えられることもなく着いてしまった。

 そして、まだ交通量の少ない大通りの右手から、バスが一台。バスってこんなに輝いていたっけ? そうだっけ?


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