僕の顧問自称殿-そろそろお名前教えてください!-
「ちょ、巫女さん!! 危ないですって!!」

 僕の必死の叫びは、目を閉じたまま矢を射続ける巫女さんの可愛らしいお耳には一切届かないようで。

 それにしても、僕が避けて移動するのに合わせて、巫女さんは矢の向きを転換するのはなぜなのだろう?

 そんなことを考えたのがいけなかったのだ。一瞬、僕の足が止まってしまった。

 その時、僕の左の太ももに衝撃が走った。

「あつっ!!」

 恐る恐る視線を落すと……あああああっ!!

 矢、刺さってますけど!? もう、貫通して僕の太もも、落ち武者の頭みたいになってますけど!
 
 熱い。傷口に心臓があるみたいにドクドクいってる。痛みを感じないのは、世に言うアドレナリンなるものの効果か。

 その間も、びゅんびゅん、僕のめがけて矢が襲ってくる。

 僕、このまま死ぬのだろうか?
 運に恵まれないまま、15年という短い人生は終わってしまうのだろうか。

 あんな美女に抱きしめられたんだ。もう、『生きる』という運さえも使い果たしてしまったのだろう。

 訳のわからないまま、そう納得して、最後にもう一度、美女を目に焼き付けておこうと前方に目を凝らす。

 あ、あれは!!

 暗闇と巫女さんの眩しさで今まで視界に入らなかったが、巫女さんの後ろには、僕を奮い立たせるものがあった。

 足を引きずり矢を避けながら、その道具が置いてある場所に向かう。

 僕が唯一得意とするもの。なんと5段。

 最後に、最後に……!!
 この気持ちを巫女さんに伝えなければ!

 ふつふつと湧き上がる、ある種の使命感にも似た感情を感じながら、その道具の前に座った。

 ああ! 運よく半切サイズの和紙もあるじゃないか。
 シャコシャコシャコシャコ
 
 ……矢が頬を掠める最中、一心不乱に墨をすっている僕って一体……。


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